2009年4月4日土曜日

グラン・ヴァカンス 廃園の天使〈1〉 /飛浩隆


飛浩隆・著 早川書房刊 2002年

最近読んで面白かったSF小説。あらすじ↓

ネットワークのどこかに存在する、仮想リ ゾート“数値海岸”の一区画“夏の区界”。南欧の港町を模したそこでは、人間の訪問が途絶えてから1000年もの あいだ、取り残されたAIたちが、同じ夏の一日をくりかえしていた。だが、「永遠に続く夏休み」は突如として終焉のときを迎える。謎のプログラム の大群が、街のすべてを無化しはじめたのである。こうして、わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦がはじまる。



この物語 の舞台である夏の区画は、陽光の下に輝くのどかな港町であり、そこに登場するAI達は、あたかも人間のようだ。
しかし、物語が進み世界が崩壊していくのに 合わせ、“夏の区画”の本当の姿が、視覚情報だけでなく、AI達の関係や感情までもが綿密にデザインされ、それが歯車のように噛み合って成立していた世界 の姿が浮かびあがってくる。

仮想空間、そこではデザインの領域が物質世界に比べはるかに拡大している。

もし現実に高性能の仮想空間が誕生したとしたら、どのように建築家はかかわっていくのだろうか。
読み終わった後はそういうことをぼんやりと考えていた。
 
夏 の区画の構造は明らかにされるが、物語の進行によって生じた多くの謎はこのシリーズの次巻以降へ持ち越される。
現在、2巻目となる「ラギッド・ガール」ま でが発売されており、こちらは現実世界、数値海岸の双方を舞台とした短編集となっている。
仮想現実の仕組みや仮想空間の現実世界での位置づけ等が語られ、 よりSF的な側面の強い作品で、こちらも刺激的で面白い。
しかしまだ完結しておらず、次巻の発売が非常に待ち遠しい。