2009年8月25日火曜日

ARCHITECT JAPAN 2009 ARCHITECT 2.0

表参道のGYRE内ギャラリーEYE OF GYREにて8月30日まで行われている展覧会。キュレーターは藤村龍至氏。mashcomixによる戦後の日本建築史をメタに描いた3枚の巨大な建築マンガと、8組の建築家、アーティストによる作品展示

1.せんだいメディアテークコンペ応募案(古谷誠章)1995
2. 富弘美術館(ヨコミゾマコト)2005
3. W-PROJECT(日建設計)2009
4. GYRE(MVRDV+竹中工務店)2008
5. 朝日放送(隈研吾+NTT-F)2008
6. re: schematic (徳山知永)2009
7. 新スケープ(中央アーキ+樋口兼一)2007
8. Browin' in the Wind(伊庭野大輔+藤井亮介)2005

という構成。


作品を見ながら思ったことは、あぁ、これは藤村さんの展示だな、ということ。作品の丁寧な解説は全て藤村さんが書かれており、氏の提唱する批判的工学主義や超線形設計プロセスとリンクした形で作品を切り取っているのがよくわかる。氏は多くの書籍で魚の成長過程やビルディングKの設計過程の図が付いた文章を載せ、積極的にメディアを活用していたが、そこから更に発展させ、周りを巻き込んで自分の主張を強化している。このようにメディアに対してガンガンいくスタンスは非常に面白いと思う。

しかし、展示では藤村さんに誘導されてしまった感があり、各作品についてもう少し自分なりに噛み砕く必要があったかなと、帰宅後に気付いた。作品の中で一番面白かったのが日建設計の展示で、現物のファサードパーツが、ダイレクトに身体に有効性を伝えてくれた。これがあることで、模型やボードの見え方も違ってくる。大きなことでも身体に還元してみることで見えてくることがありそうだ。他の作品についてももっと別の視点が導入できたのではないか。自分の反省。

2009年8月4日火曜日

ヨコハマアパートメント/ON design

設計:ON design/西田司・中川エリカ
竣工:2009年
所在地:横浜市戸部
用途:集合住宅

僕たちもかつてお世話になった西田司さんの最新作、ヨコハマアパートメントを見に行った。
昨年11月にBankARTで行われた藤村龍至氏とのUrban commons展で1/10模型が展示されていたが、つい先日竣工(まだ少し内装や外構に工程は残っているが)し、イベントと展示を伴った内覧会が行われた。
横国出身者で結成された403architectureによる仮設資材インスタレーションと藤村氏を招いてのシンポジウムについての感想は割愛させて頂くとして、今回はこの建築について思ったことを書きたい。

この建物は野毛山動物園をこえたさらに先の古くからある住宅密集地の中にある。都市というドライな関係性よりももっと濃密な空気の流れる住宅地のなかに、隣家の軒先スレスレに真っ白いUFOが4本の脚をおろして着地したような不思議なたたずまいをしている。この建築の用途は4戸の集合住宅であるが、一番の特徴はなんといっても天高5mのピロティ部である。これは「才能ある若いクリエイターに活動の場所と住居を提供したい」という施主の熱意を受け、ON designがカタチにした結果現れて来たものだ。一階の共用部は半外部であるが、そこではアーティストの創作活動が行われるだけでなく、近所の人たちのコミュニティ活動などさまざまなことに使われる。まだ賃貸開始前だが早速大家さんによるヨガ教室が行われるようだ。
この空間でどんなことができるのか、それは事務所のスタッフでさえ手探りだ。今月から一ヶ月3人のスタッフがモニターとして入居し、使い方を模索していく予定だという。

前述のインスタレーションやシンポジウムなども、議論の内容こそ藤村さんがコントロールしようとしていたが、そもそもこの場所で行われること自体がとても面白い状況だった。なぜならここは「木造アパートの一階」でしかないからだ。
シンポジウムでは藤村さんが執拗にスタンスについて問うていたが、この建築はまさに西田さんのスタンスそのものを表している。「都市」よりもっと身近で濃密な「近所」へと開く。この建築がある場所は間違いなく横浜のローカルだが、おそらくメディアに乗って日本中へ問題提起していくだろう。それは即ち西田さんとON designの戦略でもある。

以前Y-PAC radioでインタビューしたとき、西田さんは「住宅はまちの中のなわばりである」とおっしゃった。住宅が個人のなわばりであるとすれば、この建築は4人の住民だけでなく、近所のすべての人々のなわばりであるとも見える。そうして「わたしのなわばり」だけでない、「わたしたちのなわばり」が増えて行ったとき、まちの姿は今よりもっと濃密で力強いものになっていくに違いない。